研究技術/テーマの紹介

 現在、BGICで研究に取り組んでいる
技術/テーマの紹介です。

木材を「溶かす」最先端技術

Cutting-edge technology to “melt” wood

溶けにくい木材をムダなくまるごと
低エネルギーで溶かす技術

日本の国土に多く存在する放置林は、手入れされず節目ばかりになってしまった使いにくい木材が多くなりがち。それを利用するための技術が、どんな木材でも化学品の原料にできる低エネルギー溶解技術です。そもそも木材はセルロース、リグニン、ヘミセルロースの3成分が、鉄筋コンクリートのような強靭な構造を形成しているため、なかなか溶けません。例えば木からセルロースを主成分とするパルプを取り出すには、圧力釜で150℃の熱を長時間かけ続けるという高エネルギー、高環境負荷のプロセスが必要でした。BGICが京都大学と開発している低エネルギー溶解技術は、エネルギーをほとんど必要とせず、リグニンのみを溶かしてセルロースを取り出したりすることもできる、環境負荷の少ない画期的な技術です。木を溶かすことが容易になれば、これまでにない木材の運搬や加工ができるようになり、リサイクルも容易になります。日本中の放置林を価値ある森に変えることも、この技術なら可能になるのです。

木の構造と3つの成分

木の構造と3つの成分

木材は熱流動性がない

木は高熱で燃やしても溶けないので年輪がそのまま残り炭になる

木材は熱流動性がない

溶かした木材を機能化して、
多種多様な素材に変えてゆく

木を溶かす技術は、環境負荷が問題になっている石油系プラスチック素材を、木材由来素材に代替できます。でも、それだけではありません。石油にはない用途や機能を与えることもできるのです。木材は天然の高分子素材。それ自体に備わった自然由来の特性を有効活用したり、新たな物質を組み込むことで今までにない新素材をデザインできるだけでなく、溶かす技術をさらに進化させて様々な溶解データを蓄積していけば、石油化学以上の多様な素材や革新的な生産プロセスも生み出せる可能性に満ちています。この溶かす技術、木だけでなく草や海藻にも農業残渣や甲殻類にも応用できるので、林業はもちろん農業や水産業といった一次産業とも連携して新たな経済活動を創造することも見込めます。溶かす技術を駆使して環境負荷を減らし、エコノミーとエコロジーを両立しながら石油化学を超える化学産業を完全循環型で生み出していくために。BGICは多くの企業や大学と共創したいと考えています。

バイオマスから作られる製品例

バイオマスから作られる製品例

循環型素材産業図
(バイオマスバリューチェーン)

循環型素材産業図(バイオマスバリューチェーン)

セルロースで金属を吸着する技術

Technology to adsorb metals with cellulose

セルロース×化学修飾で、
狙った金属を選択的に吸着

通常、都市鉱山から特定の金属を回収する場合、酸などで溶解させた後、いくつものプロセスを経由した末に金属が回収されています。代表的な例として、イオン交換樹脂などの石油系吸着材に金属を吸着させて燃焼させ回収するというプロセスがあります。しかしこれらの方法では多大なコストがかかる上、燃焼に大きなエネルギーが必要になり、多くのCO₂を排出してしまいます。さらに樹脂が燃えにくいため焼け残りが発生したりすることも。そこでBGICが着目したのがセルロース。原料である木はCO₂を吸収して成長するため石油系吸着材より環境負荷が少なく、紙のようによく燃えます。しかも低コストで入手しやすく再生可能なため、吸着材として最適だと考えたのです。このセルロースが持つヒドロキシ基を、別の置換基へと化学修飾して金属を吸着する機能を付加することで、セルロース由来の金属吸着材が生まれます。この吸着材ならば、産業廃棄物の中から狙ったレアメタルや貴金属だけを選んで回収することができます。さらに燃やすエネルギーも従来より少なく、効率的かつ低コストで金属を回収できるので、環境負荷の少ない画期的な希少金属リサイクルプロセスとして大きな期待を集めています。

TypeⅠ
セルロース系金吸着材のプロセス一例

TypeⅠ セルロース系金吸着材のプロセス一例

TypeⅡ
セルロースから高効率な金属吸着材を作る

セルロースのヒドロキシ基を別の置換基へと化学修飾し、金属を吸着できる部位を付ける

TypeⅡ セルロースから高効率な金属吸着材を作る

吸着回収率99.9%以上
希少金属リサイクルの他、
ヒ素などの有害物質も吸着可能

BGICが開発するセルロース由来の金属吸着材は、99.9%以上もの高い吸着回収率を誇ります。これまでは回収しきれずに廃棄されていた極低濃度の金属含有廃液からも有価金属を吸着回収することができます。さらにこの吸着材、金属リサイクルだけでなく鉛やカドミウム、セレンやヒ素などの有害物質の除去にも活用できます。工事現場や建設現場の地下からの汚染水が周囲に流出しないように防ぐバリア材や、世界各地で問題になっているヒ素混入地下水の浄化フィルターなどにもこの吸着材が役立つことが期待されています。

トンネル工事現場

トンネル工事現場

安全な飲料水

#安全な飲料水

日本を希少金属資源大国にする
リサイクルサプライチェーンを
実現したい

2050年までに多くの希少金属の需要量が埋蔵量を超え、世界的に不足すると言われています。また鉱山に埋蔵する希少金属の発掘にも、膨大なCO₂が排出され続けています。悲観的な未来を実現しないためにも、使用後の工業製品を有用な資源と捉える「都市鉱山」から、いかにして低コストで効率的に金属をリサイクルできるかが非常に重要になります。実は日本は金属の埋蔵量は少ないものの、膨大な都市鉱山が存在しています。金だと世界の埋蔵量の16%を占めるほどです。
これらをセルロース吸着材技術を起点にして繰り返し再利用できるリサイクルサプライチェーンを構築できれば、日本が希少金属の資源大国になることも夢ではありません。
日本を希少金属資源大国にするリサイクルサプライチェーンを実現したい

CO₂を原料に変える技術

Technology to convert CO₂ into raw material

太陽光超還元®︎

これまでのCO₂還元技術のほとんどは、CO₂を分解するために大きな電力を必要とし、その電力を生み出す際にCO₂を発生させてしまっていました。ダイセルの「太陽光超還元®︎」は、太陽光を照射するだけで周囲の空間に生成される水和電子によって、高い効率でCO₂を一酸化炭素と酸素に分解し続けます。そして、ナノダイヤは劣化しないためその反応は半永久的。さらにはH₂Oを水素と酸素に分解することも可能。発生した水素と一酸化炭素で例えばメタノールを合成すれば、原料として再利用できるのです。
半永久エナジー産業サイクル

ナノダイヤソリューションの
太陽光超還元®︎は、3D還元

これまでの還元技術は固体触媒の表面のみで起こるものでしたが、「太陽光超還元®︎」では水和電子が周囲の空間に放出されるため、2次元ではなく3次元での高効率な還元反応を実現します。
ダイヤモンドを用いたCO₂還元は
能動的で高効率
ダイヤモンドを用いたCO₂還元は能動的で高効率

必要なエネルギーは太陽光のみ
唯一無二のカーボンネガティブ技術

これまでのCO₂還元技術では、触媒にCO₂を吸着させ電子と反応させるために電力を必要とし、電力の使用に際しCO₂を発生させてしまうという問題がありましたが、「太陽光超還元®︎」では太陽光を照射するだけでナノダイヤ中の電子が周囲の空間に放出されるため、人工エネルギーをほとんど必要としません。そしてナノダイヤは化学的に安定で劣化しないため、半永久的にCO₂を分解します。
CO₂を原料(CO)に変える場合の
使用エネルギー比較
CO₂を原料(CO)に変える場合の使用エネルギー比較

未来を変える素材 酢酸セルロース

cellulose acetate

100年近い歴史を持つ未来素材、
酢酸セルロースの可能性

木材由来のセルロースと酢酸によってつくられる酢酸セルロースは、人類が生産サイクルをコントロールできるサステナブル素材です。実は酢酸セルロースは石油系プラスチックが普及するはるか昔から生産され続けている長い歴史を持っています。しかし後に大量生産・大量消費社会の中心になったのは、加工しやすい石油系プラスチックでした。現在はその石油系プラスチックによる環境面での様々な問題が明らかになり、再生可能な酢酸セルロースへの期待が改めて高まっています。ここBGICでは酢酸セルロースにまつわる最先端の研究が、いくつも進められています。自然由来の高分子素材である酢酸セルロース。環境はもちろん人体にもやさしく、自然環境での生分解性があり、再生可能な循環型の新素材として、あらゆる領域での活用が期待されています。

生分解性を追求した酢酸セルロース

CAFBLO®︎

軽量で強度の高いバイオマスプラスチックです。美しい外観に良質な手触り、高い成形安定性を備え、優れた海洋生分解性を誇ります。海洋プラスチック汚染が問題となる現在、海洋への流出が懸念される様々な製品への展開が期待されています。

生分解性を追求した酢酸セルロース

CAFBLO®︎の製品事例

CAFBLO®︎の製品事例

溶けにくいセルロースを溶かす
イオン液体

ionic liquid

セルロースを溶かして反応させる
魔法の液体

高い生分解性を持つ酢酸セルロースですが、従来の製造プロセスは木材パルプを溶かす際に多くの熱エネルギーを必要とすることや、反応に長い時間がかかることが課題でした。金沢大学と共同で開発したセルロースをイオン液体に一度溶解させてから反応させる新プロセスはセルロースを短時間、低いエネルギーで溶解・反応させることができます。エコロジーでありながらエコノミーなこの新技術により、カーボンオフセットとエネルギーオフセットを実現し、持続可能な循環型社会構築に貢献していきます。

推定溶解機構

セルロースは分子間で強固な水素結合を有しており、通常溶媒には溶解しません。
イオン液体はセルロースの水素結合を温和な条件で切断することができ、高濃度のセルロース溶液が得られます。
推定溶解機構

溶解の様子

セルロース

セルロース

イオン液体に溶解したセルロース

イオン液体に溶解したセルロース

複雑な工程を劇的に効率化する
二軸混練押出機

Twin screw kneading extruder

不可能を可能にする連続製造方法

二軸混練押出機は、金属筒内に入れた物質を平行な二本のスクリューで混練して押出し、目的物を得る装置です。スクリューの形状・組合わせや運転条件を調整することで、様々な操作を効率良く物質に与えることができます。従来プラントでは複数の装置で時間をかけて実施していた操作も、一つの装置内の各所で一気に実施可能です。広い土地がなくても、二軸混練押出機ならコンパクトな設備で高効率に、複雑なプラントに匹敵するものづくりができるかもしれません。計測やシミュレーションの技術も開発・活用しながら、設備の実装化を目指しています。

二軸混練押出機の活用例

二軸混練押出機の活用例

二軸混練押出機のスクリュー